三技協Optiマガジン第2号
サイバーマニュアルによるナレッジシェアリング経営とは
[寄稿]三技術はセンサーSierを目指す(2)-道路交通とセンサーの関わり
[対談]セキュリティよもやま話(2)-面白い暗号の歴史
<リリース>SGCニュース
セキュリティよもやま話 第2話-面白い暗号の歴史

対談相手
A:渥美 治(株式会社三技協執行役員フェロー:通信や暗号技術に関する、当社の生き字引・今年冬のコンゴ出張の際には、日焼けしていたため、現地人に間違えられたことも!)
B:園田 晴美(当社スタッフ:今まで携帯電話のメールくらいしか使っていなかったため、通信やインターネットについては、頭がくらくらしてよくわからない日々。
C:中沢 耕一(当社スタッフ:渥美フェローの話は眠くなる、と言われることから、今回の内容は歴史と聞き、歴史小説ファンとして飛び入り参加。)

エッフェル塔と暗号つながり

■渥美:
ところで、パリにエッフェル塔という観光名所が、市内にありますね。

◇園田:
そうですね。前に観光旅行で見たことがあります。

■渥美:
あれはなぜあるのか、知っていますか?

◇園田:
東京タワーや大阪の通天閣のように、観光客を集めるためでしょう。

◎中沢:
確かパリの万国博のために19世紀にできた、ということを聞いたことがあります。

パリのエッフェル塔

パリのエッフェル塔

■渥美:
それもあります。エッフェル塔は1889年、フランス革命100周年と万国博覧会を記念して作られました。しかしパリの粋な町並みの中で、なぜあれだけ無骨でアンバランスな格好なのか、知っているでしょうか?

◎中沢:
今は違和感はないですが、当時の石畳の町並みからすると、いくら記念といっても、ごつすぎるような気はしますね。

■渥美:
パリは古都ですので、3−400年前の景観を極めて大切にしています。ちょうどその時代、イギリスではマルコーニによる無線技術が開発され、大西洋を横断する通信に成功しました。英仏は当時長い戦争をしていたことから、イギリスで開発していた無線を傍受する、もしくは妨害電波を出すために、建てたのではないかと、暗号学者としての私は勝手に推測しています。

◇園田:
まさか! 実際ありえるのでしょうか?

■渥美:
フランスは今でも、そんなことは認めていません。「策は密なるをもって成り、漏るるをもって破る。」と有名な言葉があるでしょ!歴史ロマンとして面白いでしょう。

◎中沢:
それは最近、確か「ホワイトナイト」やら何かの際に言われましたね。

■渥美:
それは中国の古い格言で、違うでしょう!


古代の暗号

執行役員フェロー 渥美治

執行役員フェロー 渥美治


■渥美:
あまり自分1人で話していてもいけないですので、これを見てください。
「Pruqlqi」の意味するところは、何でしょうか?

◇園田:
なんですか。これは。

◎中沢:
これは確かアルファベットを何文字かずらす、というやつですね。プログラミングで文字コードをずらす、ということをやったことがありますので。


■渥美:
それでは、意味はわかるでしょうか?

◎中沢:
さあ?

■渥美:
それでは説明しましょう。これはシーザーシフト暗号といい、古代ローマのジュリアス・シーザーの時代、もとのアルファベットから文字を何文字かずらして使用する暗号のことで、アルファベット”換字”暗号ともいいます。
意味は後のお楽しみ、ということにしましょう。

◇中沢:
しかし当時でも、こんな子供だましの手で暗号として通用したのでしょうか?

■渥美:
確かに単純です。しかし頻繁にシフトする字数を変更したのと、一定の間秘密を保てれば良い、という内容を送っていたことから、これでも十分でした。この仕組みは中世まで使われ、スコットランドの女王メアリーが、アルファベットを特別な記号に換えたり、日本でも戦国時代に上杉謙信が、行と列の表で文字を置き換えたりしていました。

近代日本と暗号技術
◎中沢
明治になると、西洋から近代技術を輸入する際に、暗号技術なども併せて入ってきたのではないでしょうか?

■渥美:
暗号技術は、手の内を明かすことになるため、仮に同盟関係でも教えてもらうことはありませんでした。明治には日英同盟という軍事同盟が結ばれていますが、最新兵器の売買はなされても暗号技術は別格で、技術の伝授もありませんでした。


洋上を航行する艦艇(イメージ)
洋上を航行する艦艇(イメージ)
◎中沢:
今年は戦後60年で、太平洋戦争でも当時の日本の暗号が筒抜けになったことがありましたが、明治時代では暗号は使われたのでしょうか?
日清・日露戦争など、大きな戦争が相次いだように思えますが?



■渥美:
今年は戦後60年と共に、日露戦争100年の年でもあります。中沢さんは、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んだことはありますか?


◎中沢:
確か日本海海戦で大勝した連合艦隊の参謀、秋山真之のことが書かれていたことを覚えています。

■渥美:
完全に余談になるけど、まあ「よもやま話」だから良いでしょう。当時世界最強といわれたロシアのバルチック艦隊に、日本の連合艦隊が勝てた理由は何でしょうか?

◎中沢:
確かロシアは北欧から地球を半周回り、長途の航海での疲労困憊の中、戦ったのが大きい、と言われていますね。

■渥美:
それも1つの要因でしょう。いくつかの要因が挙げられるように思いますが、強いて申しますと、主力兵器である大砲の差異ではないでしょうか。
ロシアは12インチの長距離砲が多かったものの、長距離ですと艦隊決戦でお互いに動きながら撃ち合い、また波もあることから、命中精度も良くありませんでした。
当時はレーダーもなく、光学で測距する測距儀も性能が不十分だったことから、最終的には目視や双眼鏡で距離を合わせる必要がありました。

これに対し日本では、中距離砲主体であったものの、砲身が波で動かないよう、当時最新の水準器が設けられており、これを最大に活用して波の高い場面での射撃訓練に力を入れ、命中率を上げたのが大きかったといえるでしょう。
日本側は波の高い海域をあらかじめ調べ、対馬沖などの波が高く、霧の出にくい場所を選んでいたことからもうかがえます。

ここで、あの名文句「本日天気晴朗なれど、波高し」というのがありますね。

◎中沢:
司馬遼太郎の本にも、「文学の領域に入っている」とも言われていますし、後世に大きく影響しましたが、単に士気を上げるための文言だったのではないでしょうか?
日本海海戦の旗艦「三笠」(イメージ)
日本海海戦の旗艦「三笠」(イメージ)

■渥美:
そうではありません。
当時日本では、晴天で波の高い状況で猛訓練をしていましたが、暗号学者の私から見ると、海域の状況を連絡するため、「暗号」として教えていたとしか言いようがないように思います。
確かに、結果が分かっている後世では、美談として文学の領域とまで言われていますが、作戦を立てた参謀の秋山真之はこの電報を見て、手の内を知らせて「まずい!」と思ったようです。
結局当時の日本ではアルゴリズムとしての暗号がないことから、”隠語”を流して、あうんの呼吸でわかるようにした、ということが大きいように思います。
類推しますと、十分な暗号体系は無かったのではないでしょうか。

◎中沢:
うがった見方なように思えますが、確かに考えて見ると面白いですね。
それはそうと、太平洋戦争では日本でも暗号や乱数表が使われていますが、これはどこの国から吸収していったのでしょうか?

■渥美:
日露戦争で有利な条件で講和した日本は、同じくロシアの脅威にさらされている東欧諸国や北欧などの、親日感情に大きく貢献しました。
もともと暗号に熱心だったのは大国よりも、常に大国の脅威にさらされていた国のほうが、生きる知恵として熱心でしたので、日本を助けようとした国も出てくるようになりました。
第一次世界大戦の直前に、ポーランドの軍事暗号に関する技術将校を招聘し、当時三宅坂にあった参謀本部に「暗号班」を創設して、独自の研究をするようになり、一定の進化が見られるようになりました。
ただ第二次世界大戦に至るまで、暗号技術が進んでいたのは主に陸軍であり、他の海軍や外務省までには、十分理解が至りませんでした。
ただ暗号技術に遅れて参加したものの、進化のスピードについては、賞賛されても良いように思えます。

◇園田:
ところで、冒頭の暗号「Pruqlqi」は、ずっと考えていたのですが、よくわかりません。一体何でしょうか?

■渥美:
単純にアルファベットを3文字、前に戻せば分かるでしょう。「夜と昼の間」といえば、わかるでしょう!


※第3話 「秘匿と認証、OTP暗号」については、次号にお届け致します。
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